+---正しい初夢の見かた---+ 1月1日、伊賀栗の郷では、久々に里帰りをした藤林すずと彼女の仲間たちがのんびりと正月を過ごしていた。 「はぁ・・・」 居間にいる他の5人に聞こえるような大きなため息をつくクレス。 「どうしたんだよ?クレス。浮かない顔して・・・」 「何か悩み事でもあるのか?」 「どこか具合でも悪いのですか?」 「あ、いや・・・そんなんじゃないんだ。ただ・・・」 「ただ?」 「・・・初夢のことを考えてたんだ。」 クレスの言葉にキョトンとする一同。 「はつ・・・ゆめ?」 「それがどうしたのよ。」 「僕は毎年、初夢で良い夢が見られないんだよ。」 はぁ・・・と、悩ましげにため息をつくクレス。 「なぁんだ。そんなこと?」 「やっぱり、新年最初の夢くらい良い夢を見たいんだよ。神経が布団針くらい太いアーチェには僕の繊細な気持ちなんてわからないだろうけど。」 「むっかー!どーゆー意味よ!?ソレ!!」 「なるほどな。クレス。おまえの気持ち、よぉっっくわかるぜ。オレも巨大タマネギに押しつぶされた夢が初夢だったことがあるんだ。最悪だよな・・・嫌な夢が初夢ってのはよ。」 「同感だな。私もわかるぞ。以前、大人の本をミラルドに見つかる夢を見たんだが・・・目覚めが最悪だったよ。」 「それは・・・現実の話じゃないんですか?クラースさん。」 「・・・ミント、余計なツッコミを入れないでくれないか?」 「ひとを無視して話を進めるなーーー!!」 「まぁまぁ・・・とにかく、クレスさんは初夢の夢見が悪いので悩んでいたのですね?」 「うん。でも・・・どうにもならないことだよね。こういうのは・・・」 「気持ちの持ち様・・・なのかもしれないな。」 「ああ、けどよ。もし夢を見ることがコントロールできたらいいのになぁ・・・」 「そんなことできるワケないじゃない。」 「だから、もしできたらって話だよ。・・・まぁ無理だろうけどな。」 「・・・そんなことありませんよ。」 ふいに彼らの背後から現れたすずに、5人は一瞬びくりと体を震わせた。 「え!?どういうこと?すずちゃん!!」 「てゆーか、なんで背後から!?」 「後ろ、壁だぞ!?」 「・・・気にしないで下さい。」 ─気にすると思うけど!!(5人の心の中でのツッコミ)─ 「昨日、蔵の大掃除をしていたら、これが出てきたのです。」 そう言いながら、すずは一巻きの巻き物を取り出した。 「これは・・・?」 「藤林家に代々伝わる“夢見を操作する方法”を記した巻き物です。」 「ええ!?そんなことできるの!?」 「それは本当か?」 「本当です。忍者にとって、寝ている間でも夢を自分の思いのままに操作することは修行の1つと考えられていますから。」 「じゃあ・・・これを読めば・・・」 「自由自在に夢をコントロールできるってわけか!?」 「おそらく。」 「なるほど。面白そうだな。」 「じゃあ早速!LET'S TRY!!」 〜LESSON1 まずは思いこんでみよう!〜 「巻き物によれば、夢を操作するにはまず、思いこみが重要である・・・と書かれています。」 「思いこみ?」 「そうです。例えば、朝起きてすぐに良いことがあれば、その日1日は良い日だと思うことができますよね。それと同じ原理です。」 「なるほど・・・気の持ち様、ということか。」 「良い夢を見たければ、良いことを思い浮かべればいいということだね?」 「そのとおりです。」 「そっか〜じゃあやってみよっか!」 「そうですね。」 6人は目を閉じ、思い思いに良い事や楽しいことを思い浮かべ始めた。 ・ ・ ・ 「ユークリッドの闘技場で僕が50人抜きを達成したら・・・」 「私の論文が認められ、学会の石頭どもをギャフンと・・・」 「はぁ・・・風呂は気持ちいいよなぁ・・・こう・・・心も洗われるっていうか・・・」 「ケーキお腹いっぱい食べた〜い・・・」 「私の法術が皆さんのお役に立てるなら・・・」 「私が“つるにんじゃ”の称号を手に入れたら・・・」 ・ ・ ・ 3分経過 「ミント!やったよ!ついに僕は50人抜きを・・・!!ミント・・・!!」 「ミラルド!私の論文が学会で認められたんだ!!これでようやく・・・!!」 「はぁ・・・気持ち良いよなぁ・・・風呂・・・ん?あれ?穴が・・・」 「うわ〜!”イチゴショート!ザッハトルテ!サクサクのチェリーパーイ!」 「良かった・・・術が効いたみたいですね。経過は良好ですよ。」 「伊賀栗忍術秘奥義!!はっ!!」 ・ ・ ・ 5分経過 「ミント!?え?ご、ご褒美をくれるの!?あ・・・あ・・・!!」 「ミラルド・・・どうしたんだ?今日はやけに・・・ミラルド・・・!!」 「おおっ!!湯気でなかなか見えそで見えない・・・うおぉぉっ!!」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 ・ ・ ・ 6分経過 「ミント・・・!!そんな!ぼ、僕たちにはまだそんなこと早すぎるよ・・・!!」 「ミラルド・・・な、なんて・・・ああ・・・!!」 「おおっ!!い、生きてて良かった・・・!!」 「・・・(怒)」 「・・・(怒)」(ブルブルと体が震えるミント) 「・・・」 バキッ!!☆ 音と共に崩れ落ちる男性陣。 「な・・・何想像してるんですか!?クレスさん!!」 顔を真っ赤にしながら、ふるふるを体を震わせるミント。その手にはしっかりとB・Cロッドが握られている。 「全く・・・男どもは・・・!!(呆)」 「みなさん、欲求不満なのでしょうか?」 「・・・すずちゃん(汗)・・・」 「真顔でさらりと言わないでよ・・・(汗)」 〜LESSON2 寝やすい状況をつくろう!その1〜 「ミント・・・ごめん・・・僕・・・」 「知りません!!」 「ミント〜(泣)」 「ケンカはそれくらいにして、続きをやろうよ。」 「そうですね。それでは気を取りなおして・・・第1の方法で想像の鍛錬を積んだ後は、すぐに寝られるようにならなければいけない・・・と書いてあります。」 「どういう意味だ?」 「はい。眠りやすくするために、運動をすれば良い・・・ということらしいです。」 「なるほど。体を疲れさせれば、眠りやすいということか。」 「そのようです。」 「それじゃあやってみよっか!!」 室内ではダメだろうと、外に出てきた6人。外は気温マイナス5℃。おまけに北風が吹き荒れている。 ビュウゥゥゥゥ・・・・ 「ううっ!!さむぅ!!」 「さすがは真冬。ものすごい北風だな。」 「そだね〜・・・じゃああたしはここで・・・」 「・・・ってアーチェ!!勝手に家に入ろうとするな!!」 「だって寒いじゃん!!」 「少し運動をすれば、体も温まりますよ。ね?」 「う、うん・・・」 ミントに諭され、渋々頷くアーチェ。 「それじゃあまず、軽く走ろうか。10キロほど。」 「じゅっ・・・じゅっきろ!?」 「どうしたんだよ。旦那。」 「い、いや・・・本当に10キロ走る気か?」 「ええ。僕たちがトーティスにいた頃は、ウォーミングアップがてらに毎日15キロは走っていたんです。」 「でも今日は“年寄り”の旦那がいるから、少なめに走ることにしようぜ。」 「とっ!年寄り!?誰がだ!!」 「年長者だからなぁ。」 「僕たちとは一回り年が離れてますからね。」 「おいっ!おまえら!!人のことを年寄り呼ばわりするなっ!!こう見えても私は体力には自信がある!!小さい頃はよく“スポーツ万能のクラちゃん”と近所でも評判で・・・」 「あの・・・クラースさん・・・お2人とももうスタートされてますけど・・・」 「なっ何ィ!?待てーーー!!」 前方を走るクレスとチェスターを追いかけて、猛ダッシュするクラース。 「クラース・・・何ムキになってんだろ?」 「クラースさんって足速かったんですね。ものすごいスピード・・・」 「・・・既にラストスパートみたいですが。」 ・ ・ ・ 5分後 「レイズデッド!!」 キュピーン☆ 「うう・・・ここは・・・」 「大丈夫か?旦那。」 「・・・気がついたみたいですね。」 「あんまり無茶しちゃダメですよ。クラースさん。」 「本当に・・・ミントの法術がなかったら・・・」 「ははは・・・すまないな。ミント。だけど大げさだな。」 「大げさじゃないっての!心臓止まってたんだから!!」 「ああ、そういえば、・・・大きな川岸を歩いている夢を見たんだが・・・すごく気持ち良い夢だったぞ。早速巻き物の効果があらわれたみたいだ。」 「それ死にかけてたんじゃん!!」 明らかに三途の川を渡ろうとしていたみたいです。クラースさん。 〜LESSON3 寝やすい状況をつくろう!その2〜 「あ、みなさん。眠りやすい方法というのがもうひとつあるみたいです。」 巻き物をくるくると広げながら、すずが言った。 「え?まだあるの?」 「はい。ここに・・・」 すずの広げた巻き物をひょいと覗きこむアーチェとチェスター。 そのまま声に出して文面を読み上げる。 「なになに?えっと・・・体を疲れさせる以外の方法は・・・」 「自分の理解の範疇を超える書物を読むべし。なんだこれ?」 「つまり、難しい本を読めばいいということだな。確かに難しい本を読めば、理解できないからすぐに寝てしまう。」 「・・・なんか・・・自分がバカだって言われてるような感じするんだけど・・・」 「ある意味屈辱だよね・・・こういうのって・・・」 「まぁまぁ・・・とにかく試してみましょう。」 ドサドサッ!と本が山のように目の前に積まれる。 「さあ!遠慮なく読んでくれ。」 「読んでくれってクラースさん・・・」 「一体どこからこんなに本を・・・」 「細かい事は気にするな。お、これなんかどうだ?」 『精霊と召喚術との相互関係』と書かれたタイトルの本を、クラースはミントに渡す。 「はい。では・・・」 ぺらりとページを捲り、読み始めるミント。 「・・・ふぅっ・・・」 ぱたり☆ 「ミ、ミント!!しっかり!!」 「あ・・・クレス・・・さん・・・」 「一体どうしたってのさ!?」 「この本を読んでいたら・・・急に眠くなって・・・」 「ははは。そうだろうな。この本はアルヴァニスタ王立アカデミーの学生でも理解しにくい本なんだよ。」 「そりゃ・・・眠くなるわけだ。」 「これを理解するのは難しいぞ。なんといっても“偉大な召喚術士”であるこの私ですら理解するのに3日はかかったんだ。そんじょそこらの者には・・・」 「ふーん・・・精霊との契約に使えるモノって、指輪じゃなくてもいいんだ〜」 「なっ・・・!!アーチェ!?」 「ほえ?何?」 「それが・・・読めるのか?」 「あ、うん。面白いね〜昔は契約のブレスレットやペンダントがあったんだね〜あ、でもさぁ・・・精霊は術を使うとき、ユグドラシルに集まったマナを自分たちの体内で紡ぎ上げていくんだけど、エルフは体内でマナを紡げないって書いてあるじゃん?ここ違うと思うよ。あたしたちも術を使うときは体の中でマナを紡いでるんだ〜体の中で術を完成させることは、エルフでも同じだよ。」 「・・・」 絶句するクラース。その後ろではつめた〜い視線が・・・ 「そんじょそこらの者には読めない・・・ねぇ・・・」 「・・・理解できてるじゃねぇか。」 「・・・もしかして、アーチェさんの方が優秀なのでは・・・」 「ぐっ・・・」 「ま、まぁまぁ・・・アーチェさんはハーフエルフですから・・・ね?」 「そ、そうだ!アーチェはハーフエルフだから、こういうものを理解できるんだ!ハーフエルフは人間よりも優秀だから・・・!!」 「墓穴掘ってますよ。クラースさん。」 ミントの鋭いツッコミがクラースの心臓を直撃する! 「くうっ・・・!!」 「あ、やっぱあたしってスゴイでしょ〜?能ある鷹は爪を隠すっていうか・・・まぁクラースも頭良いけどね、あたしほどじゃあ・・・」 「ヴォルト!!」 バチバチバチ!! 「きゃああああっ!!」 「ぐわぁぁぁっ!!」 「うわあああああっ!!」 「ふう・・・」 一仕事終えたかのように額の汗を拭うクラース。 「自分に都合が悪いからって誤魔化すのは止めた方がいいですよ。」 しゅっと天井から飛び下りるすず。(体には電撃防止の絶縁コートを着用済み) 「大変!とにかく手当てをしないと・・・!!」 発動させていたバリアを解き、慌てて治療をはじめるミント。 それを見つめるクラースとすずはぽつりと呟いた。 「ミントさん・・・自分にだけ(強調)バリアを発動させていたんですね・・・」 「・・・我が身可愛さか・・・」 ミントはもしかして黒いのかもしれない・・・そう思わずにはいられない2人だった。 *************************** 「・・・ったく、ひでぇ目にあったぜ!」 「ホント!クラース!何すんのよっ!!」 「酷いですよ。クラースさん!」 「ん?なんのことだ?私にはわからんなぁ〜」 「くうっ!ムカツク!!」 「ま、まぁまぁ・・・」 「と、ところですず、他の方法は何か書いてないのか?」 「はい。えっと・・・」 ぱらりと巻き物を開き、じっと見入るすず。 「・・・・」 「どうしたんだい?すずちゃん。」 「・・・」 「他の方法・・・もうないのか?」 「・・・」 「その長さから見ると、もうあまり方法はないんじゃないのか?」 「・・・」 「次はどんな方法なのかしら・・・?」 「・・・あ。」 「あ?」 「いえ・・・なんでもありません。次の方法は・・・」 「方法は?」 ゴソゴソと忍者服をまさぐるすず。 「実践あるのみです。」 言うや否や、ふっと風を切る音が!! 「うっ・・・」 「え?クレス!?」 ふっ! 「あ・・・」 「ええ!?ミント!?」 ふっ!ふっ!ふっ! 「うわ!」 「あう!」 「ぐっ!」 チェスター、アーチェ、クラースが次々と倒れる。 一瞬のうちに静かになった部屋の中で、ひとり佇むすず。 「ふう・・・ご先祖様にも困ったものです。」 ぱらりと巻き物を広げ、ため息をつくすず。 広がった巻き物に書かれてあった、最後の方法とは・・・? “・・・と以上のように方法を記したが、実際はこんな方法では夢を自在に操作できようはずがない。絶対に実践しようとしないこと” 「・・・昔の忍者って、以外とお茶目だったんですね・・・」 その日、伊賀栗忍者の記したシャレのような忍術書のおかげで体力を使い果たした彼らは泥のように眠り、(半分はすずの吹き矢によって眠らされていたのだが)翌朝まで目覚めることはなかった。 当然、夢など見ることもなかったという・・・ |
<あとがき>
あけましておめでとうございます。
りさたろうです。
全く・・・新年早々何を書いているのやら・・・(爆)
まぁこれを書いているときはまだ新年迎えていないのですが。(笑)
実はこれ、ほとんど1時間弱で書き上げたものだったりします。
「年賀メールそういえば書いてねぇや!ヤベェ!!」な状態でクリスマスが過ぎ、「まぁなんとかなるだろうと」思っていたら、あっという間に大晦日だよ!!(爆)
そう!これを書いているのは大晦日の日だったりするのですよ!
やる気ねぇ〜〜〜!!(爆死)
なんでだろう・・・私が書くと、可愛らしいはずのすずちゃんが、清楚なはずのミントが黒くなっていく・・・そして他のメンバーもおかしくなっていく・・・
TOPファンの皆様、ごめんなさいです。m(_
_)m
脳内飽和な状態で書いたものにつき、わけわかりませんが、寛大な心でお許し下さいませ。
それでは最後に読んで下さり、ありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。
2003年1月1日 りさたろう